越後亀紺屋 藤岡染工場

伝統と文化の継承。歩みそのものを体現する

新潟県阿賀野市の越後亀紺屋・藤岡染工場は、約270年の歴史を誇る染物屋。VI導入などデザインに関わるなかで改めて気づいたものづくりへの思いを、ブランドディレクターの藤岡専務にお聞きしました。

※このインタビューは2017年9月に採録したものです。

越後亀紺屋 藤岡染工場

デザイナーは、まとめ役?

石川 / 最初の出会いは7年前くらい。麒麟山酒造の吟醸酒を藤岡染工場の手ぬぐいでラッピングした、ギフト商品の企画でごいっしょしました。
藤岡専務 / 当時はデザイナーが何をする人なのかよく知らず、「絵や図案が上がってくるんですか?」と麒麟山酒造の齋藤社長にお聞きしました。すると「デザイナーというのはイメージを整えてくれる人、いわばオーガナイザーなんだよ」と教えてくださって。そんな仕事があること、私と同い年らしいこと、しかも齋藤社長が全幅の信頼を寄せていることから、「石川さんは、どういう人なんだろう?」と興味を持ちました。

ロゴを通して、企業文化を伝える。

石川 / その後徐々に親交を深め、ある日「うちに足りないところがあれば教えてほしい」と相談されました。
藤岡専務 / 当社のはじまりは江戸時代の寛延元年。来年創業270年になる染物屋です。約10年前から現代の暮らしでも染物の魅力を知ってほしいと、手ぬぐいやトートバッグなどのオリジナル雑貨を製造してきて、それなりに好評でした。ただ、商品がかわいい印象に寄っていたので、藤岡染工場のよさを伝えきれていないのではという疑問もありました。そのモヤモヤを石川さんにお話ししたところ「じゃあ、私もいっしょに考えてみます」と言われて、その解決策として出てきたのが新しいロゴでした。
石川/「伝統」や「継承」、ブランドの核となる部分をしっかりコミュニケーションしていく下準備として、ロゴが一番効果的だと提案しました。もちろん事前に、なぜプリントができる時代に昔ながらの染め技法にこだわるのか、なぜ手ぬぐいを中心に商品を展開しているのか、社外プロジェクトにはどんな気持ちで参加しているのか、染めの現場も見学しながらゆっくり時間をかけてお話を伺いました。そのうえで現在の商品構成から受ける印象と藤岡染工場が本来持っている強みが一致していないんじゃないか、これから伝えていくべきなのはブランドが大切にする考え方なんじゃないかと、丁寧に説明しました。

思いを新たに、一歩踏み出す。

藤岡専務 / 初めてロゴを見たときは「藤岡染工場」という文字は入っているけれど、以前のロゴからこんなに変えていいものかと、戸惑いの方が大きかったかもしれません。結局、「どうなんだ? 大丈夫なのか?」と迷いつづけて数ヶ月寝かせてしまって。最終的に、昔から屋号として使っていた「越後亀紺屋」の文字が加わることで、老舗感を強めたこのロゴと生きていくことを決めました。
石川 / ロゴをすべてに展開していったわけではなく、まずは名刺だけを変えましたね。
藤岡専務/取引先のバイヤーさんと名刺交換するたびに、「かっこいいですね、コレ」と褒められました。それで「そうか、これはかっこいいのか」と認識していった感じです。それが日本グラフィックデザイナー協会の「JAGDA賞」を受賞して、さらに専門誌などで紹介されたと聞いて「すごいんだな」と再認識しました(笑)。
順序が逆かもしれませんが、このロゴが表す理想を実現するために、どんな製品づくりや取り組みをしていくべきか、新たな気持ちで真剣に向き合って社内で共有する、そんなきっかけをもらったと思っています。

デザインで、方向性を明確に。

石川 / 新潟県内の紡績メーカーと共同開発した、商品のパッケージもお手伝いさせていただきました。手ぬぐい×タオル=「TeWeL(テオル)」というブランド名は、染物屋とのコラボだとわかりやすいコミュニケーションでしたし、その第一弾「おふろのタオル」の商品名もよかった! もう、言ったもん勝ちというか。もともとはふきん素材なのに、名前を付けることでマジックみたいに新しいチャネルをつくっているなと感心しました。
藤岡専務 / しなやかで吸水性抜群の素材だったので、その機能を前面に出しつつ染物屋のエッセンスを加えた王道の商品をめざした結果、コンセプトとリンクした最適なネーミングができました。
石川 / その名前にいたるまでの複合的なアイデアを感じましたし、用途やターゲットをお聞きしたら手ぬぐいのような見せ方ではいけないなと思いました。それで和ではなく、洋に振ったパッケージをデザインすることで向かう先をはっきりさせたかった。するとまさにターゲットだった藤岡さんの妹さんが「あ、かわいい。これがあったら欲しい」と反応してくれました。
藤岡専務 / 実はそれまで社内の反応がイマイチだったんです。それなのに石川さんのデザインを見た途端、態度がコロッと変わったので驚きました。「今までと言ってることが違うじゃないか!」と(笑)。

ずっといっしょに、考えている。

藤岡専務 / VIでもパッケージでも、ブランドの状況をさまざまな角度から見たうえで、整理したり提案してくれるので、私たちも改めて気付かされることが多い。石川さんに相談すると「それは、こういうことですよね」といつも明快な回答が返ってきて、「そうそう、その通りです」とクリアになっていく経験が何度もありました。それが何かを見直したり、思いを確認したり、学びを得る機会になっています。
石川 / 藤岡染工場には誰にも真似できない、270年もの歴史がある。その独自性がブランドの可能性を広げる原動力だと思っています。だから最初に相談を受けて以来、もっとこうした方がいいとか、ここを伸ばすべきだということを、ずーっと勝手に考えているんです。でもすべて実行できないから普段は黙っていて、聞かれたときに小出しにしています。チャンスかもしれないのに動きが鈍いときは、私から働きかけることもありますが。実は言いたくてウズウズしている答えを、結構たくさん持っています。
藤岡専務 / 少し強引な人なのかと思っていました(笑)。そういう意味では、私たちの背中を押しながらいい方向へ導いてくれる、企業コンサルタントに近い役割を担ってくれていたんですね。