大橋洋食器

在り方が映る、大切な基盤となるデザイン

企業の原点や創業時の思いに気づく。デザインを通してそんな物語に出会うケースがあります。それをいっしょに体験したのが大橋洋食器。ロゴ・リニューアルで何を得たのか、星野社長にお聞きしました。

※このインタビューは2018年1月に採録したものです。

大橋洋食器

象徴を変えて、新しい流れを。

石川 / お仕事で直接的に関わったのは、大橋洋食器さんが創業から129年を迎えた年でしたね。
星野社長 / 130周年を目前にして、社内にも社外にも新しい何かがはじまりそうな気配を感じてほしい、変革の足がかりとなる1年にしたいと考えていました。数年前からオリジナル商品の開発に力を入れ、地域に根づく技術や素材を融合しながら新しいものづくりに取り組んでいましたが、それまで使用していたブランドロゴは歴史の重みを連想させるデザインだったので、これから先に目を向けると、もっと時代にフィットしたイメージに変えていくべきだろうとの感覚がありました。

ものづくりに、よりそう姿勢。

石川 / 企業にとっての象徴をリニューアルして、新しい流れをつくりたかったということですね。
星野社長 / そうなんです。そのタイミングで石川さんに出会えた。これはちょっと運命的だな、と感じました。デザインするうえで私たち企業について丁寧にヒアリングされる経験は初めてでしたし、石川さんはものづくりに対する思い入れが、他のアート・ディレクターとは違う気がしていましたから。なぜだろうと思ったら…
石川 / 私の出身は燕三条エリアで、ものづくり企業が多い環境で育ったんですよね。
星野社長 / 私たちは新潟県内のメーカーや工場といっしょに商品を開発しているので、ものづくりによりそう姿勢は欠かせません。そういう意味でも「依頼するなら、この人しかいない」と思いました。

ロゴであり、スローガンであり。

石川 / ヒアリングを経て理解を深め、「SMILE for your TABLE」「Total Table Coordination」「Bridge of Food Culture」とタイトルをつけた3つのコンセプトをご提案しました。
星野社長 / シンプルな言葉に意味が凝縮されていて、わかりやすかったですね。そのなかで目に留まったのが「Total Table Coordination」。「器」という文字をモチーフにした採用案でした。
石川 / 家族4人のテーブルセッティングを真上から眺めると、「器」の文字と同じ配置になるんですよね。その中心でテーブル全体に明るい光を放つ存在が、大橋洋食器さんだと位置づけました。
星野社長 / しかも実際に「器」の文字の真ん中には、大橋洋食器の「大」の字がいつもある。それが重要なんじゃないかと思って形にした。石川さんがそう話してくれたとき、実は熱いものが込み上げるくらい感動していました。次々と新しいことに挑戦しつつも、このまま突き進んでいいのかどうか少し迷いもあった時期に、私たちはこのロゴに出会うわけです。そこで企業のベースは器でしょうと、大切なものはここにあるじゃないかと答えをもらえた。それはロゴでありながらスローガンでもあって、とても力強いメッセージでした。見せられたのはデザインではなく、この先20年、30年と、ブレずに進んでいける企業の支柱だったんです。

創業時の記憶に、触れた日。

星野社長 / あの提案を起点として、コーポレートスローガン「テーブルに輝きを」も生まれました。器を介して食のシーンとものづくりにスポットライトを当てていく、そんな使命を言葉にしています。
石川 / そして翌年の130周年には、コーポレートロゴの改訂に着手しましたね。これは「あくまでベースは変えず、今の時代にあった見え方にブラッシュアップしませんか」と私から提案して実現しました。創業時から受け継ぐロゴを整える目的で実施したので、描くモチーフは当然同じ。でもよくよく見てみるとティーカップだと思い込んでいたものが、「何だか形が違うぞ」と気づいてご相談したんですよね。
星野社長 / あの発見には驚きました。社歴の長い社員に訊ねてもはっきりわからず、古い文献を紐解いてやっと判明して。結局描かれていたのはティーポット、シュガーポット、ミルククリーマーの3点で、そこから新たな事実が明らかになりました。3点のテーブルウェアが意味するもの、それは創業者の思いでした。他社でも扱っているティーポットやティーカップではなく、もっと専門的な道具を扱いたいという志ですよね。次の展開や新しい可能性ばかりに力を注いできたけれど、長い歴史のなかで見落としていた原点に立ち返る大きな転機となりました。

形を超えて、プロセスを共有する。

星野社長 / 私のなかで「石川さんに相談したい」と思う瞬間があるんです。ひとつは方向性を迷っている場面で、もうひとつは逆に方向性をかき乱してほしい場面。経験を重ねるにつれて、型にはまった価値観にしばられそうにもなりますから、それならいっそ自分の手から放して石川さんに任せてしまえば、また違う観点からアプローチしてくれるんじゃないかと期待してしまいます。
石川 / その流れで、プロダクトデザインの一部もお手伝いするようになりました。私は「相談するだけで解決する」、そんなアート・ディレクションをめざしているところがあるのですが、今のお話を聞くとそこに近づけているのかもしれませんね。デザインを超えた部分を求められたい、依頼主とそういう関係性を築きたいとずっと思ってやってきた。これは、10年くらい前から言っていることですね。
星野社長 / 相談するなかで石川さんのフィルターを通して物ごとを検証したり整理できるので、結果的に何もつくらなくてもその痕跡は新しい何かを生み出している気がします。フレームのデザインは私たちが進む道を指し示す方位磁針のようであり、私たちが想像もつかない場所へと連れていってくれる水先案内人のようでもあると実感しています。